【前編】80年前、たった1台のミシンから。針と糸に宿るちからを伝える『株式会社ヒロ』の手仕事

【前編】80年前、たった1台のミシンから。針と糸に宿るちからを伝える『株式会社ヒロ』の手仕事

金沢は、ものづくりのまち。それは伝統工芸に限らず、人がなにかを作り出すすべての現場に息づく魂だと感じます。金沢で80年つづく縫製工場『株式会社ヒロ』も例外ではありません。時代に合わせてかたちを変えながら続いてきた「縫うこと」の物語と、現在の取り組みについてお話を伺いました。

前編では、会社の歴史と、現在の主力商品「DECO-T」についてご紹介します。

■昭和初期、創業当時の様子。戦後はアメリカに卸すブラウスを生産していたのだそうです

戦後の日本とともに成長。そして現在

「わたしの祖母が内職として軍服を作りはじめたのが、すべての始まりです」
と、『株式会社ヒロ』の代表、大沼洋美さんは語ります。

当時は国内の縫製工場におおきな需要が。
1台のミシンから始まった事業は、徐々に拡大していったと言います。
「わたしの父が会社を継いでからは、受注を受けて大量生産をするようになりました。
全盛期は、金沢市内に建てた工場と県外の下請けを合わせて、300人ほどの工員がいたそうですよ」
と大沼さん。

しかし、時代の移り変わりとともに縫製は海外製が主流に。現在の日本で流通するうち、国産の縫製はほんの数パーセントという状況なのだそうです。

このまま失われてほしくない。
そう考えた大沼さんは、日本の縫製技術を詰め込んだTシャツ「DECO-T」の販売を始めました。

■和柄のちりめん布は、能登の繊維会社で生産したもの。「素材にも地元愛を込めたい」と大沼さん

主張しすぎず、だけど目を引くバランス

サイドにあしらわれた和柄生地が目を引くデザインは、布の組み合わせによって元気な印象のものから落ち着いた印象のものまで。「わたしに似合いそう」という一着が楽しく選べそうです。

「ずっと、地元で生産される素材を使ってなにかがしたいと考えていました。そのときたまたま『二越ちりめん』を生産する能登の会社を知って」
と、「DECO-T」の誕生秘話をお話してくれた大沼さん。

■見た目の美しさだけでなく、耐久性も高い生地。お気に入りのTシャツを長く着られます(画像引用元:テキスタイルネット)

ちりめん生地独特の凸凹の質感のことを「シボ」と呼びますが、能登の二越ちりめんは、このシボが細かいのが特徴なのだと言います。

「DECO-Tだけでなく、当社で販売する針山にも使っています。
針山って、針を刺すとそこから生地が裂けてしまうことがあるのですが、この二越ちりめんはシボの細かさのおかげでそういうことがない。洗濯にも強い、丈夫な生地です」。

■日本人の細やかな仕事が込められています

カジュアルなデザイン。だけど技術は一流。

もちろん、縫製にもご注目を。
Tシャツの脇の部分を丸くくり抜き、ちりめん生地と縫い合わせてあるこの部分。ここに職人技が詰まっているんです。

「Tシャツ生地は伸縮性があり、ちりめん生地はあまり伸縮性がありません。こういう異素材の生地を縫い合わせるのはすごく難しいんですよ。
技術的にも手間がかかりますし、うまく作らないと、洗濯したときに一方の生地だけが縮んで形が歪んでしまうことがあるんです」。

このデザインで何度洗濯しても快適に着られるようなものをつくるには、ほんとうに高い技術が必要なのだと言います。

■細かなことに気が付く職人の目線が、まごころにつながっています

誰も気付かないような部分に、まごころが宿る

「裁断も大切。布は縦糸と横糸で織られていて、その織りの方向を”地の目“と呼ぶのですが、地の目をまっすぐに整えてから、それに沿ってまっすぐ型紙を置いて裁断することが丁寧な縫製には欠かせません。
しかし、海外製の大量生産では生地を何十枚も重ねて一度に裁断することも多いので、細かく地の目を揃えることは難しい。
やっぱり、着心地に違いが出てくるものなんですよ」

ほんの細かな違い。でもプロの目線では「あ、これは国内産じゃないな」とすぐに気づくのだそうです。
「服を買うとき、そんな部分を気にする人は滅多にいないと思いますが…」。

誰にも気づかれないかもしれない。だけど、手間をかけてそれをやる。
日本らしいものづくりとは、そんな積み重ねによるものなのかもしれません。

「父からは『まごころのものづくり』を忘れてはならないと教えられてきました。
下請けで、大量に生産して…という状況になると、仕事が作業的になってしまいかねません。しかし、そういう心無い姿勢は商品に如実に表れてしまう、と。
それは父がやっていた数百人規模の会社でも、いまの私のような5人だけの小さな会社でも、まったく一緒のことだと思います」。

■沢山の色・柄の組み合わせからお気に入りの一着を。

後編に続きます)

<じのもんオンラインショップで販売中>

DECO-T


株式会社ヒロ
076-224-2550
石川県金沢市西念3-31-23
営/9:00~17:00
休/土曜、日曜、祝日
[Instagram]@hiro_kanazawa ※外部サイトに遷移します


じのもんライター:中嶋 美夏子

大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。

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