【前編】能登の空気を肌で感じながら、勤勉に、丁寧に。先代の想いを受け継ぐ「日本一のしいたけ」
能登・柳田地区で菌床しいたけの栽培をする『のとっこ』の二代目、上野さんご夫妻。栽培するしいたけは品評会で日本一に輝いたこともあり、品質の高さは折り紙付きです。
前編では、先代がこの地でしいたけ栽培の第一人者になるまでのヒストリー、そして二代目に受け継がれる信念についてお聞きしました。

■おがくずのブロックにしいたけの菌を植え付けて栽培する「菌床しいたけ」
今回お話を伺ったのは、代表の妻である上野朋子さん。『のとっこ』のしいたけ栽培のはじまりは今から40年以上前だったと話し始めます。
現在の代表・上野誠治さんの父(朋子さんにとっては義父)が、たった1人で一から始めた事業だったのだそう。

■先代(右)と二代目(左)。
2019年11月、惜しまれつつ他界した先代。しいたけ栽培に人生を捧げた人でした。
実直でまじめな農業人。
その性格は作るしいたけの品質にも表れ、市場でも一目置かれる存在だったといいます。
現在はハウス栽培の「菌床しいたけ」に取り組む『のとっこ』ですが、先代が最初に始めたのは「原木しいたけ」。
山で木を切り、菌を植え付け、山の中で育てる方法です。
一日も休まず、朝から山に入り、夕方に帰る生活。
「夫は『もし原木しいたけのままだったら、この仕事を継いでいなかったかもしれない』と話していました。そのぐらい大変な仕事」
と、朋子さんは語ります。
時代の流れとともに菌床しいたけへ移行。ハウス栽培となり、作業の効率は上がりました。
それでも先代は、しいたけと向き合う姿勢をまったく変えなかったのだと言います。
「まるで生き物を飼っているようでした。旅行にもどこにも行かず、四六時中しいたけのそばにいましたから」。
先代からの教えで、印象的なものは?
尋ねると、先代は口癖のようにこう言っていたと教えてくれました。
「とにかくハウスを歩き回れ。歩いて、温度や湿度を肌で感じること。そうすればいいものができる」。

■肉厚のしいたけは食べ応えも抜群。
先代の教えとともに。悲願の最優秀賞
毎年2月、菌床しいたけの品評会が行われます。
金賞・銀賞は10枠以上あるのに対し、最優秀賞は1枠だけ。
『のとっこ』も金賞・銀賞は何度も受賞していましたが、最優秀賞にはあと一歩手が届かず。
受賞は、先代の悲願でもありました。
品評会は、とにかく見た目が勝負。
まん丸で、肉厚で、軸の部分は長すぎても短すぎてもだめ。
提出する18個のしいたけは、すべてが同じ大きさでなければなりません。
しかし、そこまで規格の揃ったしいたけを作るのは、至難の業なのだと言います。
均一に揃えるには、日々の細やかな管理と、収穫タイミングの見極めが不可欠です。
そのためには、そう。
「ハウスの中を歩き回り、自分の肌で感じること」。

先代の教えを真摯に受け取り育てた渾身のしいたけは、2020年の2月、ついに最優秀賞を受賞しました。
それは、先代が亡くなってからわずか3か月後の出来事だったと言います。
「やはり、義父には受賞の瞬間を見せたかったですね」
と朋子さん。
日本一に輝いた『のとっこ』のしいたけは、現在では東京の老舗料亭にも卸すほどに。
そのクオリティは特別な出荷先だけのものではなく、日々出荷されるしいたけすべてに貫かれ、人々の普段の食卓にも届いています。

■『のとっこ』自慢の肉厚しいたけを手軽に楽しめる加工品セットも販売。ぜひご賞味あれ。
(後編につづきます)
<じのもんオンラインショップで販売中>
農事組合法人のとっこ
0768-76-0115
石川県鳳珠郡能登町字寺分ロ部15-8
営/9:00~17:00
休/土・日・祝
[Instagram]@notokko_shiitake

じのもんライター:中嶋 美夏子
大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。