“物語”が生まれる木工品を。森と暮らしをつなぐ『ki to ki』のサステナブルなものづくり
間伐材や端材を使用したサステナブルな木工雑貨のブランド『ki to ki』。
日本の森林が抱える課題をデザインの力で解決したいと取り組む、代表の高橋さんにお話をお聞きしました。

■日本の国土は、なんと7割近くが森林なのだそう。生育を健全に保つことが求められます。
使われずに破棄される木材。課題を解決したい
「間伐」という言葉にピンとこない人も多いと思いますが、つまり、木を健やかに育てるための“間引き”のこと。
野菜や花を育てるとき、密集を防ぐために弱い株を抜く作業がありますよね。
それは木を育てるときも同じ。
森林全体の生育を保つためには、タイミングを見て適度に木を伐採する必要があるのだそうです。
この過程で生まれるのが「間伐材」なのですが、ひとつ課題点が。
それは、木を育てるうえで必ず発生するにもかかわらず、うまく活用されているとは言えないこと。
木材として十分な品質を持ちながら、破棄されてしまうことも多いのだと言います。
「間伐材が抱える課題を、デザインの力で解決できないかと考えたんです」。
そう語るのは、デザイン事務所『フォーオン』の代表、高橋さん。
デザインの仕事の傍ら『金沢林業大学校』で森林について学んだ経歴を持ちます。
「学びを通じて、製品に木を使っていく意義や責任を強く感じた」という高橋さんは、2023年、間伐材や端材を活用したサステナブルな木工雑貨ブランド『ki to ki』を立ち上げました。

■木材の加工所。
木工のプロとタッグを組んで生まれた製品
美しい森林サイクルの一部でありながら、市場価値を低く見積もられがちな間伐材。
「世の中に価値を示すため、とびきり良いものを作りたい」。
そう考えた高橋さんがまず手がけたのは、能登ヒバのペンケース。「日常に溶け込む木工品」を考えた末、たどり着いたアイテムです。

■ヒノキにも似た爽やかな芳香が特徴の能登ヒバ。使うたび、森の香りが漂います。
制作を担ったのは、金沢市の木工芸メーカー「株式会社 谷口」。 碁笥(碁石を入れる器)で全国シェア60%を誇る老舗ながら、現代的な表現にも意欲的に取り組む会社です。
その高い技術力を生かし、木の良さを引き立てたスタイリッシュな仕上がりに。

■木工細工が美しいカードケース。名刺交換の場面で相手に特別な印象を与えます。
カードホルダーには、杉材を生産する際に出てしまう端材の部分を活用しました。
制作を手掛けたのは、宮大工の安田正太郎さん。金沢城の修復工事にも携わった熟練の職人です。
金具を一切使わず、すべてのパーツを木で構成。杉の端材の中から目の詰まった部位を厳選し、高品質な仕上がりになりました。
「物語」をキーワードに。ブランドのこれから
「木という素材の魅力は、感覚的な心地よさを届けられることにあると思う」
と高橋さん。
ふと漂う香りに癒されたり、手に持ったときの柔らかさにほっとしたり。
単なる道具としての存在を超え、暮らしの中に「物語」を生み出してくれるような気がします。
最後に、高橋さんはこのような展望をお話してくださいました。
「皆さんに森にやさしい商品を選んでいただき、使っていただくことで、森を守る循環が生まれる。そんな未来を描いています」。
”サステナブル”という言葉だけが先行しがちな昨今。
しかし、こうしてお話を聞いていると、そこには解決しなければならない具体的な問題があるのだと気づかされます。
あまり気負い過ぎず、日々の暮らしの中に少しだけ上質なものを。
それが結果的に豊かな森林を守ることにつながるのだとしたら、嬉しいことです。

■春の贈り物にぴったり。
<じのもんオンラインショップで販売中>
株式会社フォーオン
076-231-6550
石川県金沢市広坂1-2-32 3F
営/10:00~19:00
休/土、日、祝
[Instagram]@ ki_to_ki__

じのもんライター:中嶋 美夏子
大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。