「針のない剣山」で花をいける新スタイル。小さな花器に秘められた“地球をめぐる金属の旅”とは?
ずっしりと重みのある、いくつもの穴が開いた丸い金属。
一見すると美しいオブジェのようですが、実はこれ、『金森合金』が生み出した新しいスタイルの花器なのです。
同社がライフスタイルブランドを立ち上げた背景には、「”金属の循環”のことを多くの人に知ってほしい」という願いがありました。

■鋳造ではドロドロに溶けた金属を型に流し込んで製品を作ります。
「日本人は真面目なのでアルミ缶をきちんとリサイクルに出しますが、その後の行方について気にする人はそこまで多くない気がします」
そう話すのは、『金森合金』のなんと24代目、高下裕子さん。
アルミ、銅などの非鉄金属でできた製品を溶かし、不純物を取り除き、鋳造の技術で違った形の製品に作り変える。そんな仕事を江戸時代から続けてきた会社です。
それってつまり、リサイクル。SDGsが叫ばれるはるか昔から、金属の分野ではリサイクルが当たり前に行われてきたのです。
「その時代に合わせて様々な製品が作られ、役目を終えて廃材となってきました。それを、新しい時代に必要とされる新たな製品に作り変える。
金属って、循環しているんです。そのことをみんなに知ってほしい」
と高下さんは言います。

■「機械でくり抜いているんですか?と聞かれることもありますが、鋳造で模様を表現しています」と高下さん。
300年の歴史が育んだ技術で、暮らしに寄り添う製品を
鋳造とはどんな技術なのでしょう?お聞きすると
「鯛焼きの型を思い浮かべてください。上下の型を閉じたときにできる空間に金属を注ぎ入れて固めることができれば、金属製の鯛が完成しますよね。そんなイメージです」
とのこと。
もちろん、オリジナル商品「針のない剣山」も鋳造製品。職人の技術により細かな造形が実現しているのだと言います。

■一輪だけでもいい雰囲気に。花瓶のように倒れたりする心配がないから、安心してお花が飾れます。(photo by 高橋俊充)
“剣山”と言ってもとげはなく、穴の部分に植物の茎を差し込んで使用するのが特徴です。
それ自体がオブジェのようにおしゃれなので、お花を一輪だけ挿して剣山を見せる使い方ができるのも魅力。誰でも手軽におうちに花を取り入れられそう。
銅には抗菌効果があるため、水をきれいに保ってくれてお花が長持ちするのも嬉しいポイントです。
「大切にすれば孫の代まで使えそうですよね」と言うと、
「なんせ銅製品って、卑弥呼の時代の調度品が今も残っていたりしますよね」
と高下さん。
それほどに長持ちする一方で、溶かしてしまえば新たなものの材料にできる。なんと興味深い素材なのでしょう。
「だからわが社では”在庫“という概念がないんですよ。溶かして別のものに作り直せばいいんです」
サステナブルな取り組みと言えば今っぽいですが、この会社ではずっと昔からその技術が継承されてきたのだから、すごい。時代が追いつきました。

■「サイン」には単に”看板”という意味もありますが、“刻み込まれたしるし”といった意味も。
人々の思いを刻み込み、世界を巡っていく金属たち
大阪・関西万博では、能登半島地震で発生した金属廃材を再利用し、パビリオンのサインスタンドを制作するプロジェクトを手がけています。
被災地で集めたアルミサッシなどを工場で溶かし、制作の過程で生じる凹凸の質感をあえて残して成形。
金属の循環に乗せて、そこに刻み込まれた人々の思い出や記憶も後世へと繋がっていく。そんなことを思わせる取り組みです。
「地球上の鉱物資源には限りがありますから、“無理なく循環させる”という発想でものづくりを続けていきたいですね」
と高下さんは最後にお話してくださいました。
目の前にある小さな花器。
その前は、どんな製品だったのでしょう? さらにその前は……?
気づけば思わず、金属の旅に思いを巡らせてしまいます。
さて、冒頭の話。回収されたアルミ缶は、このあとどこへ向かうのでしょう?
少し気になってきませんか? ぜひ、調べてみてくださいね。

■受け皿によって表情が変わるのも楽しい。自由な発想でお花を飾ってみて。
<じのもんオンラインショップで販売中>
株式会社 金森合金
076-267-3003
金沢市松村6丁目100
営/8:15~17:00
休/土曜、日曜
※一部土曜は営業
[Instagram]@ kanamori1714 ※外部サイトに遷移します

じのもんライター:中嶋 美夏子
大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。