キラキラ輝く銘菓・加賀紫雲石。美しさに込められた秘密とは?
石川県加賀市山代温泉。古くから温泉街として栄えるこの地で三代にわたり和菓子店を営む『音羽堂』。看板商品の「加賀紫雲石」に込められた思いについてお聞かせいただきました。
一つの石との出会いから生まれた名菓

浄土宗の開祖である法然には、比叡山から降りる道中で大きな石に腰をかけたところ、たちまち紫色の雲が立ち上ったという逸話が残されているのだといいます。
その石は「紫雲石」と名づけられ、現在も京都の西雲院に大切に安置されています。
いまから数十年前、京都で和菓子職人の修行を積んでいたという『音羽堂』の二代目。
ある日配達先の西雲院でこの石を目にしました。
きれいだな、としみじみ心を打たれたのだそう。
修行から戻り、その記憶を頼りに作り出したのがこのキラキラ輝く寒天と豆のお菓子。
現在では『音羽堂』の看板商品となった「加賀紫雲石」です。
先代の思いが込められた和菓子。今の人にも届けるために

3日間丁寧に乾燥させて仕上げた寒天は、表面がシャリッとした独特の食感。
中はぷるんと柔らかく、ほどよく炊き上げた豆がぎっしりと詰まっています。
透き通った寒天の中でつやつやと輝く色とりどりの豆。
人が座れるほどの大きな石がモチーフ…ではありますが、この和菓子の姿はきらめく宝石を思わせます。
まるで、紫雲石を見て美しいと感じた二代目の心を映し出しているかのよう。
「お客様からは“ありそうでなかった和菓子”とよく言われます。寒天も豆も和菓子では定番の材料ですが、言われてみれば珍しい組み合わせなのかもしれませんね」
と言うのは同店の三代目、東出さん。
国産の材料にこだわり丁寧に作られた加賀紫雲石は現在東京の百貨店でも販売され、好評を博しています。

職人技が光るポイントは、表面の乾燥。
日々変わる温度と湿度に合わせて糸寒天と粉寒天の配合を調整し、
暑い時期には糖度を微調整するなど、長年培った経験と勘が欠かせないのだと言います。
東出さんはこのように続けます。
「でも、当時のお菓子を厳格に守っているかというと実はそうでもなくて。時代に合うように変えていることも多いんです」。
お菓子にはかつて甘ければ甘いほど好まれた時代もあったといいますが、
現代の人はどちらかというと“甘さ控えめ”が好み。
加賀紫雲石も、そんな時代の流れに合わせて甘さを調整しながら現在に至ります。
「このお菓子を作った先代の思いを大切にしながら、今のお客様の気持ちにも寄り添っていきたい」と東出さん。
大切な場面で選ばれる和菓子として

創業のきっかけは、温泉で旅館を営む親戚から客間に置く和菓子の製造を依頼されたことでした。
二代目から対面販売の店舗を構え、現在は三代目。山代温泉に根ざした和菓子店として地域に愛され続けています。
「音羽堂なら間違いない」。
そう言ってくださる地域の方々の期待に応えたいと東出さんは言います。
お祝い事や法事など、大切な場面で選ばれることの多い音羽堂の和菓子。
こんな言葉が印象的でした。
「ご進物には、お店でお買い求めいただいたお客様の先に、それを受け取られるもう一人のお客様がいらっしゃるんです」。
たとえ一筆添えずとも、渡されたお菓子を一目見ただけで「良いものをいただいたな」と相手に伝わらなければいけない。
そのためには、お菓子の味はもちろん、見た目の美しさも、包装の丁寧さも欠かせない要素です。
隅々まで美意識を張り巡らせ、贈り物としてふさわしい和菓子であり続けたいと話します。
「お客様が大切な方にきれいなお菓子をお渡しできるといいなと。きれいなお菓子に乗せて、気持ちが伝わるといいなと思っています」
と東出さん。
ひとつの石との出会いが生んだ宝石のようなお菓子。
きれいなものに感動する純粋な心が、世代を越えて人々に広がっていきます。

<じのもんオンラインショップで販売中>
(DATA)
御菓子処 音羽堂
0761-76-1330
石川県加賀市保賀町へ46
営/8:00~18:00
休/日曜
[Instagram]@otowadou※外部サイトに遷移します

じのもんライター:中嶋 美夏子
大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。


