能登生まれのもっちり和菓子「おだまき」のルーツとこれから。
三角の形がかわいい「おだまき」は、石川県・能登地方の郷土菓子。現在は宝達志水町の『御菓子司たにぐち』さんの看板商品として多くの人に親しまれています。
地域の歴史に根ざしたそのルーツや、現在のように能登にとどまらず広く届けられるようになった背景について、お話をうかがいました。
名物「おだまき」。三角形の可愛いお餅の背景には地域の歴史が

手のひらサイズの三角形が印象的な餅菓子「おだまき」。
石川県の能登地方・宝達志水町の『御菓子司たにぐち』が、創業から3代にわたって作り続ける看板商品です。
もともとおだまきは、この地域に伝わる郷土菓子。
かつて、この地域では苧麻(ちょま)という糸の原料となる植物の栽培が盛んで、
それをモチーフに作られた菓子として地域の人々にとって大変なじみ深いものでした。
ここ宝達志水町だけでなく、中能登や富山県氷見市など、苧麻が生産されていた地域一帯でおだまきが作られていたという話も残っているのだそう。

「祖父の代から変わらない、昔懐かしい味を守り続けることを大切にしています」
というのは、『たにぐち』の谷口航平さん。この店の三代目になります。
おだまきは、上新粉で作ったもっちりとしたお餅であんこを包んだシンプルなお菓子。
だからこそ、使用する素材の厳選が欠かせないのだといいます。
北海道産の小豆に能登の塩。上新粉は石川県産のコシヒカリを原材料としたもの。
そして、一つひとつ丁寧な手作業で仕上げていく工程は今も昔も変わりません。
こうして『たにぐち』さんは、郷土の味を現代に伝えているのです。
郷土のおだまきを能登の外にも広めたい。人気の「いちじく味」の誕生秘話

今でこそ金沢市内の百貨店やスーパー、さらに県外でも見かけるようになったおだまきですが、その販路を広げたのは二代目である谷口さんのお父様だったそうです。
「能登の外ではほとんど知名度がないところからのスタートでした。日持ちもしないことから、物産展に持って行っては半分以上破棄するという苦渋の努力が印象に残っています」
と谷口さん。
それでも諦めずに物産展に参加するうち徐々に認知が広がっていったのだと、当時のことを振り返って話します。

おだまきのバリエーションにも開発秘話がありました。
現在、店内には色とりどりのおだまきが並んでいますが、本来の郷土菓子として伝わるのは、実は白一色のみなのだといいます。
『たにぐち』さんでも、当初は白いおだまきのみを販売していたといいますが、ある日「いちじく味のおだまきが作れないか」との依頼が舞い込んできます。
『たにぐち』さんのある旧志雄町と、いちじくを特産品とする旧押水町が合併して「宝達志水町」が誕生するにあたり、それを象徴するお菓子としてのオファーでした。
「正直なところ、はじめは乗り気ではなかったようです」と谷口さん。
しかし、この愛らしい淡いピンクのおだまきには、たちまち大きな反響が。のちの多彩な商品展開の足がかりとなりました。
現在の展開は、定番として「つぶあん」「黒豆・くるみ」「よもぎ」「いちじく」。
それに加え、季節のおだまきとして「さくら」「冷やしずんだ」「能登栗」「金沢柚子」。ほかにもイベントに合わせた限定味を販売するなど、多様な商品で楽しませてくれています。
伝統を守りながら、世代を超えて愛される和菓子店へ

現在では冷凍技術の進歩により、日持ちの問題が解決。オンラインでの販売にも力を入れています。
「家族経営のちいさなお店ですが、皆さんの手を借りながら少しずつ販路を広げることができています」と谷口さん。
郷土の歴史を現代に伝える、おだまき。
それを担う『たにぐち』さんだからこそ、全国に目を向けながらも、やはりいちばん大切にしたいのは地域密着の在り方だといいます。
「この店の三代目として、次世代にわたり愛され続ける和菓子屋を目指していきたいです」
という谷口さんの思いをのせて、おだまきはこれからも地域の象徴として親しまれていくことでしょう。

<じのもんオンラインショップで販売中>
(DATA)
御菓子司たにぐち
0767-29-2112
石川県羽咋郡宝達志水町荻市9-1
営/8:00~18:00
休/なし
[Instagram]@ odamaki_taniguchi※外部サイトに遷移します

じのもんライター:中嶋 美夏子
大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。