加賀野菜との運命の出会い。まちの洋菓子店パティシエが”ベジスイーツの匠”になるまで

加賀野菜との運命の出会い。まちの洋菓子店パティシエが”ベジスイーツの匠”になるまで

オーダーメイドで作るイラストデコレーションケーキや、カラフルなリボンで包まれた焼き菓子のギフト。『エンゼル洋菓子店』は、誰もが思わず胸キュンしてしまう愛らしさを届けてくれる「まちのケーキ屋さん」です。

そして、もうひとつの魅力が、長年追求してきたという加賀野菜のベジスイーツ。その挑戦の歴史についてお聞きしました。

■鮮やかなオレンジが特徴の「打木赤皮甘栗かぼちゃ」。同店の加賀野菜スイーツはこの野菜から始まりました

加賀野菜スイーツのはじまりは、偶然の出会い

「きっかけは、近くの農業センターで催された”農業まつり”に足を運んだことだった」
と、裏野さんは当時のことを思い出します。

そこで出会ったのが加賀野菜のひとつ「打木赤皮甘栗かぼちゃ」のスープ。 
この濃厚な甘みはお菓子にぴったりなのでは?と考え、シフォンケーキを作ったのが最初なのだそうです。

平成の初めごろの話。まだ「加賀野菜」という名称が存在しない時代でした。
現在では加賀野菜として「打木赤皮甘栗かぼちゃ」が売られるのをよく見かけますが、
当時、生産農家は県内にたった2戸のみ。
その灯は潰えてしまう寸前だったのだと言います。
「自分の父親の子供時代は、かぼちゃといえば赤い皮のものだったと言います。それがいつの間にか緑色のかぼちゃが主流に。時代の変化のなかで不人気になっていった」。

その後、金沢独自の希少な野菜を守るため「加賀野菜」のブランド化が開始。 
その歩みと共に、『エンゼル』でも加賀野菜のお菓子をどんどん開発していったのだそうです。

■シロップ漬けのくわい。「季節ものの野菜は、1年分の量を仕入れ、大量に仕込んで冷凍保存しておきます」と裏野さん。

農家さんから預かった大切な野菜。美味しく仕上げたい

「店があるのは、農家が多い地域。農家さんから『うちの野菜も使ってみてほしい』と声をかけてもらい、それに応じる形で野菜が増えていきました」
と裏野さんは語ります。
さつまいも、金時草、太きゅうり…。どの野菜も農家さんが愛情を込めて作ったもの。
託された野菜を美味しいお菓子に仕上げることを使命と感じ、試作を続けました。

例えば、太きゅうり。 試しにシロップ煮にしてみたところ、
べちゃべちゃにならず、シロップの甘みにも負けない仕上がりに。
 加賀野菜の持つ力強い存在感に可能性が感じられました。

商品化に苦労した野菜もあります。
「年中見かける野菜であればいつでも試作ができますが、季節ものの野菜はそうはいきません。今年うまくいかなければ、来年に持ち越しになります」。
おせち料理に使われる”くわい”は、出回る時期がお正月前後に限られており、手に入れるのが難しい野菜のひとつ。
試作のタイミングが限られるなか、火を通しても固くならずホクホクとした食感を残せるよう研究を重ねました。

■農家さんが大切に育てた加賀野菜を、素材の味を生かした焼き菓子に。

創業50年。加賀野菜にこだわり、地域目線のお菓子づくりを

加賀野菜スイーツの取り組みには苦労もありますが、 裏野さんは「とても楽しい」と笑顔で語ります。
「野菜が好きなのはもちろんですが、何より農家さんのことが好き。昔から親しくしてきた仲間です。ほかの店にはない『加賀野菜のお菓子』を作ることで、農家のみなさんに貢献したい」。

『エンゼル』は、もうすぐ創業50年を迎えます。
原材料の値上げなど、時代が移り行く中で大変なことも多いと言います。
さらに、昨今の気候変動の影響で加賀野菜の収穫量が激減。 
今後、仕入れの確保が難しくなる可能性もあるのだそうです。

「本当は毎日でも気軽に来られるお店でありたい。それゆえ、値上げは心苦しい」。
地域の人に愛され、地域の人と共に歩んできた店だからこその葛藤が言葉からにじみ出ます。
「それでも、地域密着で頑張っていきたい」とお話してくださった姿からは、
加賀野菜とお菓子への深い愛情、そして農家さんやお客さんへの感謝の気持ちがあふれていました。 
これからも変わらぬ思いで、心のこもったお菓子を届けてくれることでしょう。

■「3月から4月のお祝いシーズンには焼き菓子ギフト、5月の母の日にはシフォンケーキ。季節に合わせて加賀野菜スイーツを楽しんでくれている」と裏野さん。

<じのもんオンラインショップで販売中>

加賀野菜シフォンケーキセット(2種)


ケーキハウスエンゼル
TEL 076-240-1143
〒920-0376 石川県金沢市福増町南79-1
営/9:00~20:00
休/水曜、その他不定休あり
[Instagram]@cakehouse_enzeru


じのもんライター:中嶋 美夏子

大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。

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