【後編】80年前、たった1台のミシンから。針と糸に宿るちからを伝える『株式会社ヒロ』の手仕事
先代の父から教えられた「まごころのものづくり」を大切にする『株式会社ヒロ』。お話をうかがうにつれ、ただの仕事としての付き合い方をはるかに超えた、ものづくりへの愛が伝わってきました。
後編ではまず、幼少のころの話を。そして「縫うこと」の未来についてお聞きしました。
(前編はこちら)

■かわいいお針道具があれば「ちょっとボタン付けでもしてみようかな…」なんて気分になりそうです
“いいもの”に手で触れて、感性で覚えること
縫製工場を営む両親のもとで生まれ育った『株式会社ヒロ』の代表、大沼さん。
「小さい頃、母がブラウスの生地でペチコートを作ってくれたのを覚えています。
お姉ちゃんのと区別がつくようにワンポイントをつけてくれて。こども心に、それが嫌でしたねぇ…」
と笑いながら、幼少期のことを話します。
だけど、お父さんに連れられて工場を見に行くのは大好きだったのだそうです。
現在ではめったにお目にかかれないような高級な生地も、当時の縫製工場ではごく普通に扱われていたのだとか。
上質な素材を実際にその手で触れながら覚えていくことができたのは貴重な財産だった、と振り返ります。
「いいものは、知識ではなく感性で覚えないと。実際に触れたり、見たり、洋服であれば着てみたり。そうしないと本当の良さはわからないと思う。
だからでしょうか。父はクリスマスプレゼントには必ず洋服を買ってくれました」。

■丁寧につくられたお道具が小さな箱に
「可愛らしい」のその先がある、本物のお針道具たち
「いいもの」へのこだわり、そして目利きの力が反映された商品が、『株式会社ヒロ』の人気商品のもうひとつ、ちいさなお針道具たち。
はさみや糸や針山がギュッとひとところに集まった姿を見ると、なんだか愛おしい気持ちに。
だけどこの子たち、可愛いだけじゃないんです。
山中塗のお針箱。九谷焼の針山。縫い針は、日本有数の針の産地である広島県の一級品。
どれを取っても一流の道具なのが『株式会社ヒロ』のお針道具のすごいところなのです。

■「父の会社にあった大量のお猪口をもらい受け、再利用したのがはじまり」という九谷焼の針山
「入り口は『かわいい!』と思ってもらうことが一番だと思っています。
でも、ほんとうに大切なのは、丁寧なきもちで作られた品質の高いものだということ。
”安くていいもの”って今の世の中には沢山あるけれど、それだけじゃ足りない。
”想いが伝わるもの”なのが最も大事」
と大沼さん。
「”いいもの”にはおおきな力が宿っていて、それは世界中どんな国の人にもちゃんと伝わるんです。
訪れてくれた方には必ず『実は日本の針は9割以上が広島でつくられていて…』というふうに、ものが持つエピソードをお話します。
外国の方でも、ときには日本の方以上に深く関心を持って聞いてくださり、共感してくださる。嬉しいですよね」。

■針仕事が楽しくなりそうなアイテムたち
”自分の手で作る”ことの力を信じて
社員のみなさんも、ものづくりが大好きなのだと言います。
「わが社は、それが唯一の入社条件」
と大沼さん。
作るのが大好きな人たちが集まっているからこそ、アイディアも次々と生まれる。そのアイディアを自分たちの手でかたちにする。
そんな熱気を、たくさんの人に感じてほしいと考えています。
「この時代、お母さんが縫い物をする姿を目にする機会は随分減ってしまいましたよね。そのためか、いまの子どもたちは針仕事に触れるチャンスが本当に少なくなってしまいました。
でも、かわいいお針道具があればちょっと関心を持ってくれるかもしれない。そんな気持ちも込められています。
やっぱり、自分で手を動かして作ってみないとわからない世界があると思うんです。
自分で作ったものだからこそ愛おしさが湧いてきたり、大切にしようという気持ちになったり。
そういう経験をたくさんの人にしていただけたらなと願っています」。

■プロの仕事、だけど手作りの温かさも忘れない。そんな制作現場です
<じのもんオンラインショップで販売中>
株式会社ヒロ
076-224-2550
石川県金沢市西念3-31-23
営/9:00~17:00
休/土曜、日曜、祝日
[Instagram]@hiro_kanazawa ※外部サイトに遷移します

じのもんライター:中嶋 美夏子
大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。