偶然が生んだ、おおきな“福”。七尾の新定番「粟津屋の塩豆大福」の誕生秘話

偶然が生んだ、おおきな“福”。七尾の新定番「粟津屋の塩豆大福」の誕生秘話

七尾で和菓子の製造をする『粟津屋』。大量生産の時代から「少し高くても特別なものを」という志向に移り変わった現代で、看板商品を誕生させるまでのお話をうかがいました。

■「能登の人は硬めに炊いた豆が好き」とのこと。地元目線の美味しさです。

戦後の物資に乏しい時代。「甘いもので皆を笑顔にしたい」と考えた先代が和菓子の修行を始めたのが、『粟津屋』のはじまりでした。

「先代いわく、昔は甘ければどんなお菓子でも飛ぶように売れたらしいんですよ。でも今はこんなに食が豊かになって、コンビニでも十分に美味しいスイーツが買える時代です。“安くて美味しい”なんて当たり前。その先を考えなくては」
そう、二代目の粟津さんは言います。

「どれでも美味しい」と評判の店ながら、時代に合わせた“看板商品”を作る必要を感じていたという粟津さん。それが、二代目としての挑戦でした。

■「 “小さいのを出して”とよく言われるのですが、出しません。このサイズだからこその良さがあると思っています」と粟津さん。

「たまたま偶然」から生まれた、特別な大福

地元スーパー『どんたく』のバイヤーとも相談を重ねるなかで、ついに誕生したのがなんとも大きな「塩豆大福」です。
手に取ると、ずっしりとした存在感。なんと1個150グラムもあるのだそう。

「大福を製造する機械から、ある日たまたま大きな大福が出てきたんですよ。それを目にしたバイヤーさんが“ぜひ商品化しましょう”って」。

使用している塩にも、ふしぎなご縁がありました。
「能登島で源内さんという方がたったお一人で作っている、特別な海塩です。ある日たまたま伺った日本料理店で出会い、すぐに『これを商品に使いたい!』とピンと来て」。

パッケージに大きく書かれた「福」の文字も、地元の書家さんとの偶然の出会いから生まれたもの。いくつもの“たまたま”が重なって、『粟津屋』の看板商品は誕生したのです。

もち米には石川県産の「かぐらもち」を使用。なんと深夜の1時半から夜通しつき続けてお餅に仕上げていると言います。餅を攪拌する独自の技法で、やわらかくなめらかな食感。大きさもさることながら、その味わいも一度食べたら忘れられない大福です。

■「餡と餅、ほんでいい」という印象的なキャッチコピー。「ほんでいい(=石川県の方言で”それでいい”)」は二代目の口癖なのだそう。

いつかは、つきたてのお餅をこの場所で

「七尾の良さは、人のあたたかさ」だと言う粟津さん。
震災復興のボランティアに来た人たちも、帰るころには「第二の故郷ができた」と言ってくれるのだと嬉しそうに話します。
そんな七尾で、つきたてのお餅を提供できる店舗を持つのが『粟津屋』のいまの目標。
「立派なお店は要らないんです。工場にちょっとした窓をつけて、”いらっしゃい!”とお餅を手渡すような感じでいい。
つきたてのお餅って、本当に美味しいんです。私たちだけしか食べられないなんてもったいない。地元のみなさんにこそ、一番に食べてほしいんです」。

美しい海と豊かな海の幸、祭りの熱気、そして温かな人たち。七尾は魅力がいっぱいの町です。
美味しいものを食べて、行ける場所にはどんどん行ってほしい。これから次々と再開される祭りにも足を運んでほしい。そしていつかは、この場所でつきたてのお餅をみんなに。

七尾の魅力が、またひとつ増えそうな予感です。

■こだわりの餡と餅。ご賞味あれ。

<じのもんオンラインショップで販売中>

能登の塩豆大福


粟津屋
0767-52-3538
石川県七尾市寿町83
営/6:00~15:00
休/日曜
[Instagram]@ awazuyan ※外部サイトに遷移します


じのもんライター:中嶋 美夏子

大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。

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