加賀百万石の製茶の歴史を知る『長保屋茶舗』の、昔と変わらぬ味わいの棒茶、新たなチャレンジの紅茶。
石川県の加賀地方では、古くから「棒茶」というお茶が広く親しまれています。
棒茶はお茶の茶葉ではなく茎の部分を焙じて作ったほうじ茶で、茶葉を焙煎する一般的なほうじ茶よりも甘く香ばしい香り成分が強いのだとか。
県内に数十件ある棒茶を販売するお店のうち、最も古い歴史を持つ『長保屋茶舗』さんがつくるお茶をご紹介します。
加賀の「棒茶」は、明治時代に庶民のために考案されたお茶

■茎を焙煎する棒茶のほうが、茶葉を焙煎する一般的なほうじ茶よりも香りの成分が強いのだとか。
明治時代、石川県加賀地方は日本有数のお茶の産地だったと言いますが、そのお茶のほとんどは海外に輸出されてしまい、国内に流通するお茶は価格が非常に高かったのだそうです。
そんな中「庶民でも手の届くお茶を」と本来捨てられてしまうはずの茎の部分を活用して作られたのが、この「棒茶」。
この地域では、今でも家庭で日常的に飲むお茶としてポピュラーな存在です。
『長保屋茶舗』の自家焙煎棒茶は「棒いり茶」!

■『長保屋茶舗』さんの「棒いり茶」。パッケージには茶壺のイラストが描かれています。
さて、そんな棒茶ですが、古くは「棒いり茶」と呼ばれていたのだそう。小松市の『長保屋茶舗』さんでは、現在も昔ながらのこの名前で棒茶を販売しています。
『長保屋茶舗』さんは、創業370年。一方、棒茶の起源は1902年、金沢市の茶商・林屋新兵衛が開発したことによると伝えられています。
つまり、長保屋さんは棒茶が考案された瞬間には既に創業200年を超えていた、老舗中の老舗!そう思うと、歴史を感じさせる「棒いり茶」の商品名がぴったりだなぁと感じます。
加賀地方の製茶の歴史を物語る茶壺

■お店の屋根にはかつてお茶の保存に使われたという茶壺が掲げられています。
お店の看板代わりも、なにやら歴史を感じさせる「茶壺」。
茶壺って、なんだか知っていますか?なんと、かつてはこの大きな壺にお茶を入れて保存していたのだそうです。
時代が進むにつれて茶壷は木製の茶箱や缶に置き換えられ、現在はプラスチックの保存容器や段ボール箱が主流になっているとのこと。
そんなこともあり、茶壺は現代のわたしたちにはあまり馴染みのない存在になってしまいましたが、長保屋さんの屋根の上で風格のある佇まいを見せ、この地の製茶の長い歴史を静かに伝えています。

■ちなみに茶箱は現在も現役。お店の中で商品を保管する用の箱として使っているのだそうです。
石川県の打越地区で作られた茶葉を使った「加賀の紅茶」

■日本国内で生産される紅茶は「和紅茶」と呼ばれ、人気が高まっています。
現在の石川県では茶葉の生産はほとんど行われていませんが、そんな中、加賀市の打越地区では3ヘクタールほどの茶畑で大切に茶葉が栽培されています。
この地元産の茶葉を使って作られるお茶のひとつが『長保屋茶舗』さんのもうひとつの人気商品「加賀の紅茶」。国産茶葉を使い日本で製造される、いわゆる「和紅茶」です。
明るい橙色とほんのりとした甘みが特徴。どこか日本茶のような爽やかさも感じられる味わいは、和菓子にも合いそうです。
この「加賀の紅茶」、地区の製茶関係者と石川県茶商工業協同組合の有志で運営する”新しいことにチャレンジしよう“という組織『茶レンジの会』が開発したというバックグランドがあるのだそう。
思えば明治時代、林屋新兵衛さんが「棒茶を作ってみよう」と考えたのも大きなチャレンジだったはず。加賀のお茶は、そんなチャレンジ精神を脈々と受け継いでいるのかもしれません。
昔と変わらない味のお茶を守り続けたい
『長保屋茶舗』さんがお茶を製造するうえで大切にしていることをお聞きすると、
「自店で焙煎するお茶は、味わいが昔と変わらないようしていくこと」
と店主の長谷部さん。
明治に生まれ、以来この地の人々に愛され続ける「棒いり茶」と、この地の茶葉の歴史を新しい形で今に伝える「加賀の紅茶」。
ぜひ味わってみてくださいね。

■お店もまた、昔からの雰囲気を残すことを大切にしているといい、歴史を感じさせる佇まいが素敵です。
<じのもんオンラインショップで販売中>
老舗日本茶専門店 長保屋茶舗
0761-22-1079
石川県小松市龍助町81−1
営/9:00~18:00
休/不定休
[Instagram]@chooboya ※外部サイトに遷移します

じのもんライター:中嶋 美夏子
大学進学を機に金沢へ。おいしい食べ物と暮らしに根付く美意識に感動し、日々探求しているうちにいつの間にか十数年が経ってしまった。人々のなにげない日常が撮りたくて、ちょっとしたお出かけでもいつもカメラと一緒。能登からやってきた保護猫とふたり暮らし。